テキスト・129頁4行目より
頼もしく、いかにと言ひ触れたまふべき人もなし。法師などをこそは、かかる方の頼もしきものには思すべけれど。さこそ強がりたまへど、若き御心にて、いふかひなくなりぬるを見たまふに、やるかたなくて、つと抱きて、
「あが君、生き出でたまへ。いといみじき目な見せたまひそ」
とのたまへど、冷え入りにたれば、けはひものうとくなりゆく。
右近は、ただ「あな、むつかし」と思ひける心地みな冷めて、泣き惑ふさまいといみじ。
南殿の鬼の、なにがしの大臣脅やかしけるたとひを思し出でて、心強く、
「さりとも、いたづらになり果てたまはじ。夜の声はおどろおどろし。あなかま」
と諌めたまひて、いとあわたたしきに、あきれたる心地したまふ。