テキスト・123頁3行目より
「まだかやうなることを慣らはざりつるを、心尽くしなることにもありけるかな。
いにしへもかくやは人の惑ひけむ
我がまだ知らぬしののめの道
慣らひたまへりや」
とのたまふ。女、恥ぢらひて、
「山の端の心も知らで行く月は
うはの空にて影や絶えなむ
心細く」
とて、もの恐ろしうすごげに思ひたれば、「かのさし集ひたる住まひの慣らひならむ」と、をかしく思す。
御車入れさせて、西の対に御座などよそふほど、高欄に御車ひきかけて立ちたまへり。右近、艶なる心地して、来し方のことなども、人知れず思ひ出でけり。預りいみじく経営しありく気色に、この御ありさま知りはてぬ。