テキスト・78頁2行目より
暗くなるほどに、
「今宵、中神、内裏よりは塞がりてはべりけり」と聞こゆ。
「さかし、例は忌みたまふ方なりけり」
「二条の院にも同じ筋にて、いづくにか違へむ。いと悩ましきに」
とて大殿籠もれり。「いと悪しきことなり」と、これかれ聞こゆ。
「紀伊守にて親しく仕うまつる人の、中川のわたりなる家なむ、このころ水せき入れて、涼しき蔭にはべる」と聞こゆ。
「いとよかなり。悩ましきに、牛ながら引き入れつべからむ所を」
とのたまふ。忍び忍びの御方違へ所は、あまたありぬべけれど、久しくほど経て渡りたまへるに、方塞げて、ひき違へ他ざまへと思さむは、いとほしきなるべし。