督の君は、なほ大殿の東の対に、独り住みにてぞものしたまひける。思ふ心ありて、年ごろかかる住まひをするに、人やりならずさうざうしく心細き折々あれど、
「わが身かばかりにて、などか思ふことかなはざらむ」
とのみ、心おごりをするに、この夕べより屈しいたく、もの思はしくて、
「いかならむ折に、またさばかりにても、ほのかなる御ありさまをだに見む。ともかくもかき紛れたる際の人こそ、かりそめにもたはやすき物忌、方違への移ろひも軽々しきに、おのづからともかくものの隙をうかがひつくるやうもあれ」
など思ひやる方なく、
「深き窓のうちに、何ばかりのことにつけてか、かく深き心ありけりとだに知らせたてまつるべき」
と胸痛くいぶせければ、小侍従がり、例の、文やりたまふ。
(前回に引き続き、「若菜 上」再度解説)
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