ダンテフォーラム


1. 21世紀においては、経済のグローバル化への関心ばかりではなく、心と心の国際文化交流がますます大切です。その意味で、日本人の愛と美意識の世界が描かれた『源氏物語』を、確かな学術研究に基づきながら国際化することは、大切な仕事といえましょう。

2. しかしながら、まだこの取り組みは本格的に行われているとはいえません。文化功労者の小西甚一筑波大学名誉教授は、『源氏物語』は「世界文学」と呼ばれるにふさわしい人間普遍の内容を持ちながら、その国際化はまだ発展途上であり、今後、専門領域を超えた学際研究によって、その国際的価値を掘り起こすことが必要であると述べられています。

3. 小西先生のアドバイスを受けて、私たちが具体的に目指すのは、古来語り継がれてきた『源氏物語』の言葉、あるいは『源氏物語』をもとにした様々な表現世界を楽しみながら、『源氏物語』に関心を寄せる国内外の誰もが、その本質へと誘われるようなマルチ・メディアのインターネット・コンテンツの開発とその配信による国際文化交流の推進です。

4. このコンテンツ開発において、私たちは、本居宣長・三矢重松・折口信夫の「国学」(古い文献・言葉の中にその国固有の精神を手繰り寄せ明らかにしようとする学問)の考え方に基づき、『源氏物語』の「言葉」の中に、古人の心を奥深く捉える味わい方を幹に置きます。また、現代語訳では、学術的成果を踏まえた格調高い訳とされる谷崎潤一郎の『源氏物語』(中央公論新社刊)の味わいを大切にしてゆきます。

5. 本フォーラム(シリーズ)は、上記の趣旨のもと、『源氏物語』(およびその周辺の古典)の中にある「日本人の根生いの心(日本人が日本人として古来から有する心)」を確かめながら、「世界文学としての『源氏物語』」が持つ意義とその国際化の手だてについて、具体的な方向性を検討するものです。このフォーラムの内容は映像化し、ブロードバンドのインターネット上で、国内外の大学・研究機関の学術研究・教育に資することを予定しています。






第1回フォーラム(2003年6月開催)では、「世界文学としての源氏物語」という視点を踏まえて源氏の持つ魅力を学び、源氏を通しての国際文化交流の課題と可能性を議論いたしました。

今回のフォーラムは、第1回の内容を受けて、とくに「歌物語としての源氏物語の本質」をどう翻訳し世界に伝えるかという視点から、源氏物語の国際化の可能性を本格的に検討してまいります。

源氏英訳の際に最も問題となるのは、日本人の心の本質が最も集約して表現される和歌の英訳のむずかしさです。和歌は、短い、リズミカルな、魂のこもった言葉の凝縮で、和歌の言葉・意味内容、多義性を持ち、何層にもわたる古い言葉の意味を込めて広がる世界があります。この奥深さを英訳できて初めて、日本人の心の本質の国際理解をはかることができるものと思われます。

今回は、講師に岡野弘彦先生・渡部昇一先生に加え、ピーター・ミルワード先生にお願いして、現在出ている源氏物語の三つの英語全訳をめぐる討論を中心に行ってまいります。
Genjiフォーラム・スペシャル 2004 (C)岡野弘彦, ピーター・ミルワード, 渡部昇一, 財団法人エンゼル財団