日米幼児・児童教育の比較文化論 日本教育行政への期待

日米幼児・児童教育の比較文化論 日本教育行政への期待

対話2 日本の教育行政への期待

15.07.2003 13:58

対話
キャサリン・ルイス(ミルズ大学教授・教育学)
土居健郎(聖路加国際病院顧問・精神分析学)
コーディネーター
須賀由紀子(エンゼル財団主任研究員・実践女子大学非常勤講師)

1.暖かい人間関係作りがご機嫌とりになっていないか


(再生時間 15分58秒)

  • 戦前の小学校教育との違いについて
  • 戦後の教育はよりイデオロギー的になったのではないか
  • 「なだめすかし」と紙一重になる危険性
  • 生徒の機嫌をとる先生はいじめられた戦前の中学校

「戦前は、成績のいい子はやはり褒められましたし、ねたまれもしました。けれども、戦後はそのことは取り上げないということがとても強くなって、それがこのエクアリティー、差別なしにしたいという理想で、日本はそれがデモクラシーだと思ったんです。それで戦後はそれが非常に強くなったんです。ですから、同じように人間関係を重視するということは、戦争前も戦争後も同じですけれども、戦後の方がもっとイデオロギー的になった。デモクラシーとか、平等の理想とか。」(土居)

2.初等教育では暖かい人間関係はやはり大事


(再生時間 12分01秒)

  • 人間関係の基盤ができてから以後は子供を甘やかさない日本の先生
  • 「1分間スピーチ」の事例
  • 泣いている子供への対応をめぐる日米の違い

「西洋人と日本人の泣き方はちょっと違う。日本人が泣くときは、あたかも泣くのを楽しんでいるような、そういうふうな泣き方に見えるんです。西洋人は急に泣き出すから、こっちはびっくりする。また、急に止まる。そういう違いがあると私は思う。ですから、日本人の先生は恐らく子供が泣いても余り驚かないんだ。泣くのをしょっちゅう見ているから。そして、泣きたいなら泣かせなさいという気持ちで見ていますし、泣く方も、泣きながら楽しんでいると言うと変だけれども、泣けてよかったというようなところが日本人にはあるようです。」(土居)

3.日本の初等教育の基本的メカニズム


(再生時間 6分22秒)

  • 子供が成長するためのニーズをつかむ
  • 学校に愛着を感じることのできる日本の子供たち
  • アメリカにはほとんどみられない「同窓会」の習慣

「例えば20年たった後で同窓会を行うというのをアメリカ人が聞くと、非常にびっくりするんです。アメリカでは、幼稚園、または小学校の同窓会に出た友達は一人もいないんですけれども、日本ではよくあることですね。先生もクラス会に入れると、大喜びという感じで、そういうのはアメリカにはまずないんです。逆に考えれば、同窓会に出たくなるぐらいの力を小学校教育が持っているとなると、価値観を教える力も持っていると思うんです。非常にいい国民をつくるメカニズムとしては、日本でも証明されていると思いますね。 」(ルイス)

4.日本の初等教育の中の問題点について/細かい規則・親との関係


(再生時間 10分42秒)

  • 細かい規則まで決めたがる日本の学校
  • 「ハンカチーフは何枚持っていくべきか」
  • 靴箱への靴の入れ方を練習させる小学校の例
  • 保護者と先生との関係が次第に悪くなってきている
  • 困っていることはなんでも先生に頼めばいい、という雰囲気

「最近は、学校教育に対する批判が強く出まして、先生方も自信をなくしていて、いろんな意味で先生と家の関係が悪くなっているかなと。そういうところに非常に疑問を感じますね。(中略)親と先生の信頼感がなくなっていて、小学校の先生は本当に大変な仕事をしていらして、親がわかっていないところがあると思いますね。」(ルイス)

5.最近の学校改革の方向性への疑問 ― 学習習熟度別グループ編成について


(再生時間 13分36秒)

  • 学習度別の授業は子供どうしの人間関係をおかしくする
  • 世界的にもレベルが高い日本の理科と算数の授業

「分けると、どうしてもできる子供ができない子供を見下ろして、人間関係が非常におかしくなってきて、競争相手としてお互いを見ると、学校が嫌になって、不登校の問題とか、学校で暴力をふるう問題とか、自分が捨てられているような気持ちになると、いろんな問題を起こすようになるんですね。それがすぐに小学校の時点で出てこなくても、中学校に入ったら必ず出てきますね。」(ルイス)

6.最近の学校改革の方向性への疑問 ― 少人数教育について


(再生時間 5分32秒)

  • 少人数教育は本当に良いか
  • 日本の一斉教育のいいところを自覚すべき
  • オリジナルなモデルを外国に求めたがる日本人

「アメリカ人の教育に対するイメージは、1人対1人の家庭教師をすべての子供につけたら一番いいというイメージだと思うんですけれども、それは根本的に違うところから来ている、違う教え方から来ていると思うんです。日本では一斉教育のとてもすばらしい授業がせっかく発達したのに、すべて少人数教育にフォーカスを置くと、逆に悪くなるんじゃないでしょうか。」(ルイス)

7.教育の中で大切なこと


(再生時間 6分32秒)

  • 小学校から中学校へ/競争にさらされる子供たち
  • 人間は良い点数を取るために生きているわけではない

「中学校の先生は、教師の中で一番長い時間を学校で教えているというか、教えることとクラブ活動で夜8時までいるという方が本当に多いと思います。教師が努力しているのに、中学校、高校教育からいろんな問題が生まれてくる。しかし、受験というものを何とか考え直さない限りは、中学校、高校の教育の問題は直らないんじゃないかという気がしますね。点数だけ取るのが大事な仕事だという社会にいきなりなってくる。だから子供たちがそこで迷うというのは無理もないと思うんです。」(ルイス)

コンテンツ名 甘えと教育と日本文化
収録日 2003年7月15日
講師 キャサリン・ルイス、土居健朗、コーディネーター:須賀由紀子
簡易プロフィール

講師:キャサリン・ルイス

(ミルズ大学教授・教育学)

講師:土居 健朗

(聖路加国際病院顧問・精神分析学)

コーディネーター:須賀 由紀子

(エンゼル財団主任研究員・実践女子大学非常勤講師)

肩書などはコンテンツ収録時のものです

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