・折口信夫の詩 「神 やぶれたまふ」
神こゝに 敗れたまひぬ−。
すさのをも おほくにぬしも
青垣の内つ御庭の
宮出でゝ さすらひたまふ−。
くそ 嘔吐 ゆまり流れて
蛆 蠅の、 集り 群起つ
直土に−人は臥い伏し
青人草 すべて色なし−。
村も 野も 山も 一色−
ひたすらに青みわたれど
たゞ虚し。青の一色
海 空もおなじ 青いろ−。
稗草の穂に出るものは
穂に出でぬ間を 爬み枯し
白き乳の垂るものとては、
若葉すら 子らに 喰ふ。
たゝかひの果てにし時に、
神集ふ 荒神たち
鹿島神 香取神
ことゞひの ひと言もなし−。
たけみなかた 諏訪の御神
おほものぬし 三輪の大神
言稀に宣すみ語の、
言寂し−。なげきぞ 深き
・折口信夫 「贖罪」
すさのを我 こゝに生れて
はじめて 人とうまれて−
ひとり子と 生ひ成りにけり。
ちゝのみの 父のひとり子−
ひとりのみあるが、すべなさ
天地は いまだ物なし−
山川も たゞに黙して
草も木も 鳥けだものも
生ひ出でぬはじめの時に、
人とあることの 苦しさ−。
すさのをに 父はいませど、
母なしにあるが すべなき−。
母なしに 我を産し出でし
わが父ぞ、慨かりける。
いと憎き 父の老男よ。
母産さば、斯く産すべしや−
胎なしに 生ひ出でし我
胞なしに やどりし我
天地の私生と
胎裂かで 現れ出でしはや−。
父の子の 片生り 我は、
・日本人の神道観の建て直しをめざした折口信夫